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「抽象への助走」 キャンバスに色彩躍動




 光一郎の湯本時代最後の作品に「独航船」がある。「色彩の饗宴」と評されることが多かった具象作品の集大成で、五色のテープと大漁旗が風にたなびき、舞っている。はち切れそうな出航見送りテープは、まさに「乱舞」という表現がふさわしいくらい勢いがあり、よく見ると、絵の具がしたたり落ちている。瞬間の印象と精神の高揚を見事に表現した作品といえた。
 制作されたのは昭和35年で、北洋サケマス漁華やかなりしころ。当時46歳の彼は、江名港近くに住む磐中時代の同級生・阿部省三(平成3年没)の家に泊まり、翌朝見送りに立ち会った。長い別 れを惜しむ汽笛、港が見えなくなるほどのテープ…。その活気にあふれる浜の光景をしっかりとまぶたに焼きつけ、100号のキャンバスに印象をぶつけたのだった。
 彼の画業50周年を記念して出版された「半世紀の歩み」と題する画集がある。次から次へと変わる画風、表現。ページをめくっていくと、光一郎がいかに新しいものを追い求めてきたかが、手に取るようにわかる。その中でも、抽象表現への助走的な役割を果 たしたのが、「独航船」といえた。
 光一郎はその前後、憑かれたように海岸線を歩き、さまざまな風景をスケッチしている。新制作の会員になって審査からは解き放たれたものの、具象表現に行き詰まりを感じていた。「自分はこれからどうすればいいのか」。炭鉱や働く人など、これまでの枠の中で少しずつ抽象表現を試み、転換を図ろうとしたが、思うにまかせない状態が続き、題材を海に求めたのだった。
 「独航船」は具象であって具象でない。「一気に勝負を決めてしまう画家」である光一郎が、使いたい色を存分に使って本能のままに措いた躍動が、見る側にも伝わってくる。自らが大好きな色といっていたバーミリオン(朱色)をポイントにあしらい、より印象を強くする配置は、彼ならではの色遭いといえた。
 光一郎は、この作品を別世界への入り口にでもするかのように、一気に「抽象」に傾倒していく。それはちょうど、平字旧城跡に新居を構えた時期でもあり、さまざまな状況の変化が彼に“転向”を決断させたのだった。
 「四倉にあった廃船の染み込んでいた油の模様や、ペンキがはげ落ち風化した船体の肌合いに興味を持ってね」。光一郎は、抽象に入るきっかけを、いつもこう語っていた。その根っこには「自然に学びたい」との思いがあった。

| 鳥の歌の響き | 22:03 | comments(0) | - |
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