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「コラージュ」 深くて渋みのある表現




 「黙して語らず」 - まるでそれが美学のように、光一郎は口数が少なかった。作品自体も、まるで彼の分身のように押しつけがましいところがない。周囲の多弁で大声あふれる作品をよそに、いつも独りシンと座って独自のハーモニーを響かせている。それが不思議な存在感となって、見る側に静かに語りかけてくるのだった。
 「ほら、こうして和紙の裏から彩色して表側にすると、何とも味のある色が出るんだよ」。アトリエを訪れたときのことだ。彼はまるで、手品のタネ明かしをするように、制作の手順や独特の風合いの出し方を教えてくれた。風化したものを想像させる、深くて渋みのあるマチエール。それは光一郎がめざした表現の、一つの到達点といえた。
 田口安男(65)は彼を「他の作家の影響を受けて変貌するというより、その刺激をダシに自らの感性をあふれさせてくる画家」と書いている。事実、和紙コラージュはポール堀内(山梨県出身でアメリカ在住)との出会いがきっかけだった。美術雑誌に紹介されていた制作ぶりに興味を持つた彼は、帰国前日にポールを訪ね、コラージュ技法と、新しい水彩 系絵の具・カゼインカラーの存在を教えてもらう。さらに文通 を交わして、新たな表現方法の探究へと突き進んでいった。
 決してピカピカ光らず、洗いざらしのような落ち着きを醸し出す、和紙とカゼインカラー。その微妙な肌合いが体質に合った。試行錯誤を繰り返していくうちに、和紙を張る面積が増え、ついにはキャンバス全面を和紙が覆うことになる。しかも、「和紙で描く」のではなく、「和紙に描く」という、彼独自の世界が確立されていった。
 昭和52年、光一郎のコラージュは大きな変化を見せる。それまで日本的空間性を追求していたのが、自身の内面 をキャンバスの中に塗り込めるようになったのだ。黒地に自由自在の線描が躍動し、まるで音楽が聴こてくるような世界。「宇宙の響」シリーズの誕生だった。
 そのイメージは福島高専の教え子で宇宙物理学を研究している、柴崎徳明(49)=立教大助教授=から得た。柴崎が展開する一方的な宇宙観をジッと聴いていた彼は静かに「“自然界の中の響きを探す”ということですね」と言ったという。
 その高感度アンテナは、宇宙と自らの精神を合体させ、見事なイメージの膨らみを見せた。そして仲間たちが「新制作展の白眉だ」と絶賛したオリジナリティー豊かな作品が生まれた。光一郎はまた一つ、まゆを食い破ったのだった。

| 鳥の歌の響き | 22:08 | comments(0) | - |
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